「幸せな気持ちで満たされると、ふと壊したくなる」不幸を待ち望む私との葛藤【神野藍】
神野藍 新連載「揺蕩と偏愛」#14
◾️感情が上下にぐらつく自分に惹きつけられて……
再び現実の私に戻る。この原稿を書き始めたのはだいぶ前なのにもかかわらず、終着点に私はなかなか辿りつかない。書いては消して、ではなく、文章が一向に前へと進まない。普段ならこんな恥ずかしい文章を見かけたら消すか、フォルダの奥底にぐっと押し込めて光の当たらない場所に隠してしまう。でも今回ばかりは消せなかった。なぜだろうか。そろそろ私が叫びたくなっているのだろうか。
少し前のエッセイで好きなように生きられて呼吸がしやすいと書いたばかりなのに、相変わらず私は不安定な方へと傾くのが得意なようだ。一貫性とは程遠いところに生きている。でもそれを表に出すこと、書くこと以外で前には出さないようにしている。とはいえ、こうやって不特定多数が見られる場所に晒している時点で何の意味もないのは私が一番分かっている。
最近考えていることがある。幸せな気持ちで満たされると、ふと壊したくなる。
壊した方が、感情が上下にぐらつく方が、面白いと思ってしまっている。何度同じ間違いのような正解に傾いただろうか。思わず手頃な石を見つけては均一な水面に投げてしまいたくなる。その後に起こることが手に取るように分かるのに、繰り返してしまう。
「ああ、またきたな」と思う。不幸を待ち望む方の私が。
理性の鎖を巻きつけて封印した私が。
厄介だ。厄介なのに嫌いになれない。最近は誰かに受け入れてほしいとも思わなくなった。受け入れようとしてもらったところで、どうせ食い尽くして相手を不幸にしてしまうのが分かるから。
結局のところ、私が私の中の彼女を愛し続けて、縛り続けるしかないのかもしれない。そして書くことでその天秤をちょうど良いところに留めておくしか、外に逃げ出さない方法は今のところそれしか考えられていない。
出口の見えない道を堂々巡りするぐらいなら、このまま歯ブラシの柄を喉奥に突っ込んでしまおう。なんて思ったところで、あちらの私が私の名前を呼んでいた。
聞こえる。戻らなければ。
文:神野藍
(連載「揺蕩と偏愛」は毎週金曜日午前8時に配信予定)
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✴︎目次✴︎
はじめに
#1 すべての始まり
#2 脱出
#3 初撮影
#4 女優としてのタイムリミット
#5 精子とアイスクリーム
#6 「ここから早く帰りたい」
#7 東京でのはじまり
#8 私の家族
#9 空虚な幸福
#10 「一生をかけて後悔させてやる」
#11 発作
#12 AV女優になった理由
#13 セックスを売り物にするということ
#14 20万でセックスさせてくれませんか
#15 AV女優の出口は何もない荒野だ
#16 後悔のない人生の作り方
#17 刻まれた傷たち
#18 出演契約書
#19 善意の皮を被った欲の怪物たち
#20 彼女の存在
#21 「かわいそう」のシンボル
#22 私が殺したものたち
#23 28錠1シート
#24 無為
#25 近寄る死の気配
#26 帰りたがっている場所
#27 私との約束
#28 読書について1
#29 読書について2
#30 孤独にならなかった
#31 人生の新陳代謝
#32 「私を忘れて、幸せになるな」
#33 戦闘宣言
#34 「自衛しろ」と言われても
#35 セックスドール
#36 言葉の代わりとなるもの
#37 雪とふるさと
#38 苦痛を換金する
#39 暗い森を歩く
#40 業
#41 四度目の誕生日
#42 私を私たらしめるもの
#43 ここじゃないどこかに行きたかった
#44 進むために止まる
#45 「好きだからしょうがなかったんだ」
#46 欲しいものの正体
#47 あの子は馬鹿だから
#48 言葉を前にして
#49 私をほどく
#50 あの頃の私へ
おわりに